新滑走路の整備で成田空港と地域はどう変わるのか。NAAと千葉県が推進組織を設立。世界の活力を取り込み、国際的な産業拠点を形成する未来志向型のエアポートシティへ
滑走路の新設など大幅な機能強化を控える日本の玄関口、成田国際空港。1978年以来の“第2の開港”と位置づけるこの再編を周辺地域に波及させ、エリア全体の発展につなげる構想が動き出しています。成田国際空港会社(NAA)と千葉県は2025年4月、その要を担うNRTエリアデザインセンター(NADC)を設立。ともにNADCに籍を置く、NAA戦略企画室の八嶋 真司さんと千葉県成田空港政策課の伊勢 徹さんに、その背景や狙い、今後のビジョンなどをお聞きしました。
成田空港「エアポートシティ」の実現を目的にNAAと県がタッグ、企業や市町をつなぐ“結節点”に
はじめに、NADC設立の背景や目的について教えてください。
八嶋 まずは、NAAの考えからお伝えします。成田国際空港では2029年3月の完成を目指し、滑走路の新設と既存滑走路の延伸を進めています。近い将来、年間発着が現在の約30万回から50万回へ増え、空港の旅客数は約2倍の最大7,500万人、貨物量も約1.5倍の300万トンへと大幅に増加する見込みです。
これを空港のみならず、周辺地域にいかに波及効果を広げられるか。NAAとしては当初から、その点も重要なミッションととらえていました。
例えばオランダのスキポール空港をはじめ、世界では空港の建設・拡張によって先端産業の拠点が集まるなど、地域全体の発展につながるケースが目立っています。NAAもそれに倣い、社内で地域との連携や共生を模索する動きを強めていました。
そして、2024年7月に公表された『新しい成田空港』構想とりまとめ2.0において、「エアポートシティ」実現に向けて、県とNAAが中心的役割を担う体制のもと、関係自治体と連携し検討していく姿が1つの方法であるとして方向性を示したところでした。

伊勢 県においても、これまでも空港と行政が一体で検討を進める組織の必要性を模索していたところであり、NAAがそうした方向性を示したことで、県とNAA両者の方向性が一致したんです。空港の機能強化の効果を国際的な産業拠点の形成や地域振興につなげることは、県としても最重要課題の1つと考えていました。
空港と地域が一体となって発展していくには、官民の枠を越えた連携が大事なポイントになります。そこで県とNAAがタッグを組み、旗振り役となる推進組織を立ち上げる構想が浮上。議論を重ね設立されたのが、このNADCです。
NAAと県が今回のような共同組織をつくり、本腰を入れて連携するのは初めてのことです。
八嶋 NADCは、交通政策や都市計画に詳しい筑波大学の石田 東生・名誉教授をセンター長に迎え、県幹部や職員、NAA役員や社員が一体となって取り組む陣容になっています。
具体的な施策や事業については現在、周辺市町や企業をはじめ、産官学民のステークホルダーのみなさんと議論を重ねているところです。私たちがそうした関係者間をつなぐ“結節点”となり、調整やマッチングの支援などを行っていきます。
世界的なデベロッパーが進出を表明。国際的な産業拠点を形成する未来志向型のエアポートシティへ
空港と地域が一体となったまちづくり。具体的には、どんな未来を描いているんですか?
伊勢 その道筋として、私たちは成田空港「エアポートシティ」構想を策定しました。そこで掲げたビジョンは、“誰もが輝き、世界と響き合う「フラッグシップ・エアポートシティ」”です。
空港やその周辺に世界各地から人やモノが集まり、最先端の産業やイノベーションが生まれ、多様な人々が働き、暮らす。成田空港を起点に、そんな風にアジアを代表する、そして世界をリードするエアポートシティに変貌することを目指しています。
それを実現するために、4つの視点でアプローチしていきます。「産業・イノベーション」「ウェルビーイング」「交通・モビリティ」「ダイバーシティ・サステナビリティ」です。

八嶋 その中で今、特に力を入れているのが産業の誘致です。先行して動いているのが物流の分野です。
すでにオーストラリアに本社を置くグッドマングループが、空港に隣接する多古町に国際航空物流拠点を開発する計画を発表。さらに不動産大手のヒューリックも、成田市に大型の物流施設を建設すると公表しています。
伊勢 物流だけではありません。航空宇宙、精密機器・先端技術、医療、農業、観光、これらの分野に力を入れていきます。
特に力を入れている分野の1つが、航空宇宙関連産業です。航空機MRO(※)分野において、成田がアジアのMRO 拠点としての地位を築くほか、次世代航空機やエンジン開発の研究・開発拠点形成を目指していきたい考えです。
※MRO:Maintenance(整備)、Repair(修理)、Overhaul(オーバーホール)の略
半導体をはじめとする精密機器、医療、農業の分野でも、様々な民間事業者、大学や研究機関などとの連携を強め、空港を中心に新たな経済圏を築きたいと構想しています。
産業が集積すれば、その分いろんな人たちが働き、暮らすことになりそうですね。
伊勢 すでに空港内外で働き、生活されている方々に加え、新たに研究者や起業家の方々などもどんどん受け入れていきたいですよね。
目指すは、空港や関連産業を支える魅力的な人材に“選ばれるまち”をつくることです。
そのために、教育や医療の充実、多様なルーツを持つ人たちとの交流促進、自然とともにある暮らし方の提案、住環境の整備などにも取り組んでいく必要があります。
交通インフラの充実も、重要なテーマの1つです。県やNAAとしても、都心などへの道路ネットワークの整備や鉄道アクセスの充実をはじめ、自動運転なども含めた公共交通ネットワークの構築にも今後、さらに力を注いでいきます。
八嶋 産業の集積、交通網の整備などが進めば、地域全体が活性化し、全国や海外から注目されるエリアになっていくはずです。すると新たな商業施設ができたり、移住者が増えたりと、そんな好循環も期待できます。
暮らす場所、生活拠点としても、将来的により過ごしやすい地域に生まれ変わっていくのではないでしょうか。
課題解決を目指し、市町の垣根を越える
周辺自治体との協力については、現状の手応えや進捗状況はいかがですか?
八嶋 周辺市町のまちづくりを支援することも、私たちの重要な任務です。
現在、各市町を回ってヒアリングや対話をさせていただいています。その中で毎回強く実感するのは、どこも人口減少や高齢化に伴う担い手不足など自分たちの市町が抱える諸問題に対し、どのようにしたら解決できるか真剣に向き合っていらっしゃることです。
ただ、これはこの地域に限った話ではないはずですが、どうしても各市町が単独で取り組むケースが多いように見えます。同じ課題を抱える複数の市町を巻き込んでうまく連携ができれば、もっといい効果が生まれるのではないかと思うんです。
伊勢 そこにこそ、私たちの存在価値があります。NADCという中立的な組織が間に入り、調整役になることで課題解決の最適解を見つける。文字通り、そんな風に道筋を“デザイン”することが、私たちの大きな使命だと思っています。
そこは実際、NADCの設立、エアポートシティ構想が策定されたことで、各市町のみなさんの意識が少しずつ変わってきている感触があります。市町の垣根を越えて、広域的な視点で地域のあるべき姿を一緒に議論する、そんな空気が生まれつつあるように感じています。

まさに、NADCが“結節点”の役割を果たしていると。
伊勢 そして、次のステップとして見据えているのが、民間事業者などとの連携です。
民間事業者の意向と、各市町の課題。そこを私たちがコーディネートすることで、様々な課題に対応していき、各種プロジェクトをどんどん具現化させていきたいですね。
そうすれば、各市町の働き口の確保や居住人口の増加につなげられる可能性も大いにあるはずです。
八嶋 NADCは先頃、民間事業者や研究機関などから構想や事業に関するアイデアを募集しました。ありがたいことに、現在も関心は継続して寄せられています。お気軽にアイデアやご相談を届けていただけるとうれしいですね。

安定的な収入、キャリアアップへ。未経験者も歓迎
最後に、新たに空港関連の仕事に就く人、移住を検討している人たちへのメッセージをお聞かせください。
八嶋 世界各地の旅行客のみなさんを送り出し、迎え入れること。空港でそんな旅の第一歩を支える一員として働くことは、とてもやりがいのある仕事だと思います。
空港機能の拡張は、そこで働くグランドハンドリングやグランドスタッフのみなさんへの恩恵も大きいはずです。仕事の量や選択肢の幅が広がり、安定的な収入やキャリアアップにつながるのではないでしょうか。
実際、今回の機能強化に伴って、空港内で働く従業員は現在の約4万人から7万人ほどに増える見込みです。もともと空港勤務に興味のある方はもちろん、新卒・中途を問わず、未経験での就職も大歓迎です。ここにはみなさんが考えているよりも多くの仕事が集まっていますので、理想の仕事、働き方を見つけられるチャンスがあるはずです。
伊勢 こんなにも空港の機能が劇的に変わるポテンシャルを秘めているのは、日本全国を見渡しても成田空港しかないのではないのでしょうか。
さらにその周りの交通をはじめとする生活インフラも充実してくれば、これまで以上に暮らしやすい地域にもなるはずです。成田市で生まれ育った私にとっても感慨深いものがあり、将来を考えると期待は膨らむばかりです。
大きく変貌を遂げる成田空港と、その周辺の地域。そこから新たなキャリア、新たな生活への一歩を踏み出してみていただけるとうれしいですね。

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<参考情報>