成田空港と地域が支え合い、発展する未来へーー。公共交通をテーマに稲敷市でシンポジウム開催
滑走路の新設をはじめとする成田空港の大幅な機能強化を見据え、周辺地域の公共交通の未来について議論するシンポジウムが11月9日、茨城県稲敷市内で開催されました。成田国際空港株式会社(NAA)経営計画部の松本 英久担当部長による基調講演のほか、公共交通を利用する市民や事業者らによるパネルディスカッションが行われました。成田空港と稲敷市は今後どう連携し、ともに発展する未来を描けるか。さまざまな提案や意見が行き交った当日の模様をレポートします。
筧市長、空港拡張は「雇用創出や観光客呼び込みのチャンス」
茨城県南部に位置する稲敷市は、有名な湖の霞ヶ浦や利根川に囲まれ、水田地帯が広がる自然豊かな街です。成田空港から西へ約25kmの場所にあります。
このシンポジウムは国の基準で市全域が「過疎地域」に指定されたことを機に、行政や市民、企業などが協力して持続可能な地域づくりについて考える取り組みの一環として開催。3回目となる今回は、成田空港の機能強化をどう地域づくりに生かすかという目的で企画されました。 冒頭で挨拶に立った筧(かけひ)信太郎市長はその経緯に触れたうえで、成田空港の拡張について「雇用の創出や観光客の呼び込みなど、チャンスがあると考えている」と強調。このシンポジウムを機に「新たなつながりが生まれ、多くの方々にまちづくりに参画いただけるきっかけになることを期待している」と力を込めました。

次に壇上に姿を現したのは、基調講演を行うNAA経営計画部の松本担当部長です。
松本担当部長は、まず「第2の開港」と位置づける空港の機能強化の具体像やポイントを説明。2029年3月の完成を目指している滑走路の新設と既存滑走路の延伸によって、年間発着容量は近い将来、現在の34万回から50万回へ増える見込みとなっています。
またそれに伴い、旅客数は現在の年間約4,000万人から最大7,500万人、貨物量も約1.5倍の300万トン、さらに空港内で働くスタッフも4万人から7万人ほどに増加することが予測されています。 外国人観光客を中心に盛り上がる日本の観光産業。「今後の需要増を、成田空港が受け止める」と固い決意を表明しました。

NAA社員が基調講演。産業誘致や地域貢献への熱い思いを語る
そんな松本担当部長の言葉がさらに熱を帯びたのは、空港周辺に産業を誘致することや、地域全体に波及効果をもたらすことへの意気込みを口にした場面でした。
NAAは千葉県とともに、産業誘致などを推進するNRT(ナリタ)エリアデザインセンターを2025年4月に設立。松本担当部長も同センターの一員として、企業や地域との連携に奔走しています。
産業誘致ではすでに複数の大手企業が物流拠点を整備することが明らかになっていますが、松本担当部長は航空宇宙、精密機器、農業、医療、観光など幅広い分野で民間企業との連携に強い意欲を示しました。 また、そうした産業誘致を支える基盤となるのが、シンポジウムのテーマでもある交通網の整備だとも強調。広域の幹線道路ネットワークや鉄道、公共交通の整備についても検討を進めているとしました。

では、こうした動きは稲敷市にどんな効果や影響を与える可能性があるのでしょうか。松本担当部長は「恩恵や波及効果は、千葉県内に限った話ではない」としたうえで、稲敷市の特性を踏まえ「特に農業、観光は親和性があるのではないか」と連携に前向きな考えを披露しました。
成田空港と稲敷市を結ぶ公共交通のあり方については、「高速道路を使えば車で約30分で空港にアクセスできるため、利便性が高い地域だと思う」とした一方、現状ではどれほど通勤や通学など移動のニーズがあるかは未知数とも指摘。空港に近接する千葉県内の自治体の取り組みを例に挙げながら、「稲敷市単独ではなく、近隣の市町を経由するルートを模索するなど、他の自治体との連携がカギを握るのではないか」との見解を示しました。 そして最後に、「公共交通や産業集積などの分野で積極的にサポートさせていただき、地域の活性化につなげていきたい」と地域貢献への思いを口にし、具体的な施策について「ぜひ一緒に考えさせてもらえれば」と協力を呼びかけました。
バス会社役員や高校生ら6人が参加、白熱のパネルディスカッション
続いて行われたのは、市民や識者を交えたパネルディスカッションです。
地元の交通事業者や高校生、成田空港で働く市民、観光の有識者など6人が参加。自治体のプロモーションや地域公共交通に詳しい為国 孝敏さん(稲敷市地域公共交通活性化協議会副会長)がファシリテーターを務め、互いに率直な意見や提案を交わしました。

事業者を代表して参加したのは、茨城県内で路線バスなどを運行する関東鉄道の常務・廣瀬 貢司さんです。成田空港と土浦市(茨城県)などとを結ぶ高速バスを走らせており、NAAが空港周辺の交通網整備を検討していることに「観光振興や地域活性化につながる」と期待を寄せました。
一方、稲敷市と成田空港の間の移動については自家用車が主流になっているとの認識を示し、バスを運行するなら「メリットをどう打ち出し、住民にご利用いただくか。NAAや行政などと一緒に考えていきたい」と話しました。

高校生は3人が登壇。いずれも市内から隣の香取市内にある学校に通学しているそうです。
まず成田市の印象を問われた細田 夏々子さんは、空港が立地することから「外国人など観光客が多いイメージ」とし、自身は「学校行事の打ち上げで食事に行き、『イオンモール成田』で遊ぶパターンが多い」といいます。空港の機能強化で稲敷市内に外国人観光客が増える可能性があることには、「人が来てくれるのはうれしいし、人口増加のきっかけになるかもしれない。市の活性化につながると思う」と話しました。

松田 実優さんと高城 心緒さんは、交通事情への本音を吐露。松田さんは以前、空港を利用する際に車で親に送ってもらった経験があるとし、「大きな荷物を持って公共交通を利用するのは大変で、便数も少ない。もっと便数が増えると助かる」。一方の高城さんは、成田市内の高校に通学している地元の友人の話を披露。稲敷市内には鉄道駅がないため、「(成田市内に乗り入れている)下総神崎駅(神崎町)や佐原駅(香取市)まで親に送迎してもらっているそう」との実情を明かしました。

成田空港への通勤は車で「渋滞なし」。手厚い待遇など働く魅力も
では、稲敷市内から成田空港に通勤している人からはどう見えているのでしょうか。通勤事情について声を届けたのは、成田空港で航空貨物に関わる業務を行うJALカーゴサービスの森田 博信さんです

森田さんによると、自宅から空港までは車で通勤し、所要時間は一般道で50分程度。「渋滞なしのルートなので苦にならない」と不満はまったくないそうです。社内では公共交通機関の利用者が3〜4割を占め、多くは空港に近接するエリアに住んでいるとする一方、中には空港から距離のある茨城県から車で通勤している人も何人かいるそうです。
また、森田さんは空港で働くことの魅力にも言及。「当社は月10日の休みがあり、手当も充実している。働きやすく、女性も約4割強いる」などと待遇や福利厚生の手厚さに触れると、高校生の松田さんが「空港で働くのはかっこいい。休暇など待遇の話も魅力的だった」と反応する場面も。その様子を見た為国さんは、「成田空港は機能拡張で今後、働く人や仕事の選択肢がどんどん増えるはず。周りの友人にも伝えてほしい」と語りかけました。

最後に、観光の視点から稲敷市の可能性や未来について語ったのが、全国のまちづくりに関わってきたまちつなぎ社の小林 遼平さんです。

小林さんは、大切なのは「『ここにしかない』という地域の資源を生かして、魅力を高めること」とし、稲敷市ならではの資源の一例として、霞ヶ浦や名産のレンコンに触れながら「水」と「農業」をキーワードに挙げました。
たとえ交通の便が行き渡っていない地域でも、魅力をうまく発信することで観光客が殺到している地域はあるとし、まずは官民総出でビジョンを明確にしてから交通網の整備について本格的に検討する方法もあるのではないかと持論を展開しました。
それを受け、為国さんは公共交通についても「地域の魅力を発信することが重要」と指摘します。成田空港に通勤する人を念頭に、例えば住宅地を整備するなど稲敷市に暮らすメリットを打ち出すことで、「その次のステップとして『バスを走らせよう』といった動きが出てくるのではないか」と話しました。

シンポジウムは2時間を超える長丁場となりましたが、会場につめかけた聴衆は真剣な眼差しを向け、登壇者の熱のこもったスピーチや白熱の議論に聞き入っていました。
成田空港の機能強化は、公共交通をはじめ周辺地域にどんな効果をもたらすのか。稲敷市を含む地域とNAAとの連携と共存の動きに、熱い視線が注がれています。
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<参考記事>
新滑走路の整備で成田空港と地域はどう変わるのか。NAAと千葉県が推進組織を設立。世界の活力を取り込み、国際的な産業拠点を形成する未来志向型のエアポートシティへ