「SORATO NRT」の名称やロゴデザインはどのようにして生まれたのか

株式会社サン・アド公庄 仁(ぐじょう ひとし)さん

滑走路の新増設を含む、成田空港第2の開港プロジェクト。成田国際空港会社(NAA)と千葉県で構成するNRTエリアデザインセンター(NADC)はこれを機に、空港と地域が一体となった新たな“エアポートシティ”の実現へ動き出しています。このほどその名称が「SORATO NRT(ソラト ナリタ)」に決まり、ロゴデザインも公表しました。どんな議論を経て生まれ、どんな思いが込められているのか。クリエイティブ全般のディレクションを手がけたクリエイティブエージェンシー、サン・アドの公庄 仁さんと重長 奈津美さんにお聞きしました

クリエイティブディレクター・コピーライター 公庄仁さん

「飛び立つ力を、すべての人へ。」に込めた思い

まずは「SORATO NRT」について、意味合いや決定までの経緯を教えてください。

公庄 「SORATO NRT」は“空の都”を意味する「SORATO」に、空港コードの「NRT」を組み合わせた造語ですが、実は僕たちの独創ではありません。本プロジェクトの主役ともいえる市民の方から一般公募で寄せられた案をベースに、NADCと検討を重ねて決定しました。 そして僕たちがクリエイティブに関わることになった段階でまず開発し、重視したのが「飛び立つ力を、すべての人へ。」という言葉です。

メインビジュアルでも「飛び立つ力を、すべての人へ。」という言葉を強調している。

どんな思いを込めたんですか?

公庄 特にこだわったポイントの1つが、「すべての人へ。」という文言です。

リサーチをする中で、NADCがこのエアポートシティ構想において“誰もが輝き、世界と響き合うフラッグシップ・エアポートシティ”というビジョンを掲げているほか、周辺市町との対話や関係構築を大事にしていることがわかりました。

大規模な都市開発ではその裏で置き去りにされる人が生まれかねない懸念がありますが、決してそうならないためにもいわゆる包摂性(インクルージョン)のようなものを大切にしようと考え、「飛び立つ力を、すべての人へ。」という文言を策定しました。

空港で働く人や旅行客、周辺住民など、すべての人が輝けるようにと。

公庄 もちろん現実的には全員が幸せになることは難しいですが、それでも「すべての人へ。」と明文化しておくことで、今後プロジェクトに判断が必要になったとき、目的やビジョンの原点として立ち帰ることができるのではないかと考えました。

僕らはこういった、ブランドやプロジェクトに紐づく1行を「タグライン」と呼んでいます。価値や思いを、短いフレーズで印象的に伝え、組織やブランドの核となるメッセージのことです。今回はこの「飛び立つ力を、すべての人へ。」というタグラインを起点に、さまざまなクリエイティブを組み立てていきました。

ロゴは飛行機の窓などをモチーフに。エリア別に5つのカラーも提案

ロゴデザインについてもお聞きします。これはどのようにして練り上げたんですか?

公庄 そもそもロゴには、ブランドという言葉の語源となった「焼印」のように、他と識別する役割もありますが、もう1つ、帰属意識を高めるシンボルとしての役割があります。「新しいエリアをつくり上げる」というプロジェクトの趣旨を踏まえ、国旗や家紋のようにシンプルかつ明快で力強い、そんな「旗印」となるロゴが必要だと考えました。

プレゼンテーションでは、そのような考えに基づいたデザインを3案ほど提案し、最終的に決まったのは飛行機の窓をモチーフにしたものでした。窓の楕円は卵の孵化(ふか)、インキュベーションの形でもあり、生命が殻を破って誕生する瞬間ともいえます。

見知らぬ世界や新たな未来に向かって、新しい産業や人材が生まれ、飛び立っていく。そんな「SORATO NRT」の理念を示すシンボルです。

さらにこのロゴデザインは、周辺地域への波及を意識した、ある提案と工夫も行いました。

どんな工夫があるんですか?ぜひ教えてください。

公庄 現在公表されているロゴマークは空をモチーフにした青を基調としたカラーですが、ほかに5つのカラーバリエーションを提案しました。

飛行機の窓やインキュベーションをモチーフにしたロゴとカラーバリエーション

「SORATO NRT」は5つのエリアで構成されており、例えば海に面する「シーサイドエリア」ならサンセット(夕日)、自然豊かな「ナチュラルライフエリア」ならグリーンの要素を加えるなど、各エリアの特性を踏まえてそれぞれのロゴに落とし込んでいきました。

ロゴデザインはエリア別のカラー展開を提案。サン・アドは表現だけでなく、それをどう活用するかという視点も大事にしているという

ロゴデザインは入社2年目のデザイナーが企画。
NADCから感じたリスペクト

今回のプロジェクトチームの構成や雰囲気などもお聞きできますか?

公庄 社内のチームは、私のほかにプロデューサーやデザイナー、コピーライターなど8人のメンバーで構成しました。メンバーはみんな早い段階で企画やアイデアを持ち寄ってくれて、進行はとてもスムーズでしたね。

サン・アドのメンバーは困難に直面してもなるべくポジティブに乗り越えようとするマインドを持っている人が多いんです。デザインやクリエイティブの業界は徹夜するほど激務のイメージをお持ちの方がいらっしゃるかもしれませんが、僕らは前向きな気持ちでスピーディーに楽しく取り組ませていただきました。

ちなみに、今回採用されたロゴデザインの原案を企画したのは、当時新卒入社2年目の女性デザイナーです。みんなが自由にアイデアを出し合い、いいものは年次に関係なく採用する。それもサン・アドの特徴かもしれません。彼女にとっても、大きな自信になったのではないかと思います。

NADC側との調整やコミュニケーションはいかがでしたか?

重長 率直な意見を伝えてもらいましたし、私たちのクリエイティブに対するリスペクトも感じました。信頼していただき、いい関係を築けたことも楽しく取り組めた大きな要因になったはずです。

プロデューサーの重長さん

何よりも、NADCからはこの構想を成功させたいという強い思いがひしひしと伝わってきました。一般に行政が関わる大型プロジェクトは調整が難航するケースもあるはずですが、今回は担当者の方々の情熱や理解に助けられた面が大いにありましたね。

地域が自走する未来へ。今年度はワークショップも計画

今後、次のステップとして考えている構想や動きなどがあればお聞かせください。

重長 私たちが目指しているのは、このプロジェクトが進んでいく中で、最終的に地域の方々が中心となることです。

もちろん、そのために私たちとしても今後も積極的にお手伝いをしていきたいと思っています。例えば、ロゴデザイン。先ほどエリア別のカラーバリエーションについてお話しましたが、今年度(2026年度)は地域の方々とワークショップを行うなどして、デザインのあり方や活用方法などを議論していく計画があります。

それぞれのエリアが今後、どんな未来を目指していくのか。対話を重ね、一緒につくり上げていくフェーズに入っていくことになりそうです。

クリエイティブを制作して終わりではなく、地域とともに二人三脚で歩んでいくと。

公庄 個人的な話になりますが、僕は東京と奥京都で2拠点生活を送っており、近年は地域課題に取り組むプロジェクトが増えています。

そういった場ではクリエイティブのよさだけでなく、地元の方との関係性構築など、プロセスも大切になります。本業ではありませんし大変ではありますが、これからの時代は表現以上のことがますます必要になると思いますし、その方がシンプルに楽しいんです。

成田空港とその周辺地域が、これからどう生まれ変わっていくのか。国内外からさまざまなモノや人が行き交い、地域全体が盛り上がっていく。「飛び立つ力を、すべての人へ。」という言葉を実感できる将来がやってくるのが楽しみですし、期待しています。

<スタッフリスト>
クリエイティブディレクター・コピーライター 公庄仁
アートディレクター 増田豊
コピーライター 高久麻里
デザイナー 久永ひな
プロデューサー 重長奈津美 永松美穂

<参考情報>

SORATO NRT ウェブサイト

■プレスリリース:成田空港を中心とした新しい都市圏の名称を決定!SORATO NRT

SORATO NRT エアポートシティ構想 資料

株式会社サン・アド
公庄 仁(ぐじょう ひとし)さん
ブランディングやコピーライティングなどを手がける。主な仕事に、累計500万部超のベストセラー「ざんねんないきもの 」シリーズ、東京メトロ×ドラえもん「すすメトロ!」、ダイソーのコーポレートスローガンなど。近年は老舗酒蔵のブランディングなど幅広いプロジェクトに従事。経済産業大臣賞など受賞多数。東京と京都府福知山市との2拠点生活を送り、全国各地で活動している。
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